大判例

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札幌高等裁判所 昭和54年(ネ)394号 判決

控訴人(第一審原告)

犬上商船株式会社

右代表者

犬上正

右訴訟代理人

岩澤誠

高田照市

田中正人

被控訴人(選定当事者・第一審被告)(選定者は別紙選定者目録のとおり)

千歳市開拓農業協同組合

右代表者

原美文

右訴訟代理人

齋藤祐三

被控訴人(第一審被告)

千歳市

右代表者市長

東峰元次

右指定代理人

片桐春一

外二名

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因第一、第二項の事実〈編注・控訴人所有の本件土地について買収処分がされたこと〉は、いずれも当事者間に争いがない。

二そこで本件買収処分の効力について判断する。

1  当裁判所も本件買収地は買収当時において未墾地であつたものと判断するものであつて、その理由は、原判決九枚目表末行冒頭から一一枚目表末行の「できない。」までの説示と同一であるから、これをここに引用する。当事者間に争いのない本件買収地に関する牧野台帳の記載、農林次官通達の存在並びに当審における新たな証拠調の結果を総合検討しても、右判断を左右するには足りない。

2  控訴人は、本件買収はいわゆる一部買収であるからその区域を特定してなすべきものであるところ、本件の買収計画及び買収令書にはその区域が特定されていなかつた旨主張し、本件買収地が控訴人主張のような各土地の一部である事実は当事者間に争いがない。

(一)  〈証拠〉によると、本件買収計画書には本件買収地を特定する北海道農地委員会作成の図面が添付され、これが被控訴人ら主張の縦覧に供せられていたことが認められるものの、全証拠によるも、本件買収令書に各買収地を特定すべき図面が添付されていたものとは認めることができない。

(二) しかしながら、買収令書に買収目的地の表示として一筆の土地の一部を単に地積を表示して掲げているにすぎない場合においても、買収手続当時の事情の下で、右の表示が一筆の土地のうちの特定の一部を指すものであることが関係当事者に疑いを容れない程度に看取し得る場合には、これをもつて買収令書において買収目的地が特定されていると解するに妨げないところ(最高裁判所昭和三〇年(オ)第四一九号昭和三二年一一月一日第二小法廷判決民集一一巻一二号一八七〇頁参照)、〈証拠〉によると、昭和二三年春ころ北海道農地委員会が本件対象地を未墾地として、千歳町農地委員会がその南東側を牧野としてそれぞれ買収することを検討していたこと、そのころ千歳町農地委員会の村田事務局長が控訴人の現地駐在員である松井重五郎から控訴人所有地に関する図面の提供を受けてその写しを作成し、これを北海道農地委員会に進達したこと、北海道農地委員会は、前記図面により現地調査の結果未墾地買収すべき地域を決定し、右図面上にこれを表示したこと、前記村田や千歳町農地委員会の書記であつた富永正は、本件買収計画公告前後ころ前記松井や控訴人の本社から来訪した大渡吉郎に対し買収計画に基づき未墾地買収地と牧野買収地とを区分した図面を使用してその範囲を説明したこと、他方北海道農地委員会や千歳町農地委員会は、買収計画公告後も買収令書交付後も控訴人から買収区域が不特定であることについては何らの申出を受けていないことが認められ、また、〈証拠〉によると、前記大渡は控訴会社の支配人的な地位にあり、控訴人を代理する立場で千歳町農地委員会との折しように当つていたものであることが認められ、右各認定に反する証拠はないから、本件買収手続当時においては買収対象地の範囲が関係当事者に疑いを容れない程度に看取し得る状況にあつたものと解せられるので、控訴人の前記主張は採用することができない。

三そうすれば、本件買収処分は有効であり、これが無効であることを前提とした控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は、爾余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却すべく、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないので民事訴訟法第三八四条によりいずれもこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(瀧田薫 吉本俊雄 和田丈夫)

選定目録〈省略〉

目録〈省略〉

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